(176) 倉敷河畔、82年後の5・15


2014年5月15日 山陽新聞(部分)
 右に一部を示したように、今年(2014年)5月15日の山陽新聞に、【軍国主義「心配」】【五・一五事件直前 犬養元首相】というタイトルで、犬養元首相の書簡に関する記事が載っていた。犬養首相は説明するまでも無く、昭和7(1932)年の5月15日に青年将校によって暗殺された首相。

 岡山県民にとっては、これも説明するまでも無い事で、犬養首相が岡山県人であり、現在は岡山市内だが、岡山市と倉敷市が接するあたりに、生家の残る人物である。事件から82年後とはいえ、地元新聞にこの人に関する記事が、5月15日に載るのは当然のことと思う。この事件後、わが国では、大きく戦争への道に舵が切られた時である。悲惨な戦争を経験した日本国民として、決して忘れてはならない日でもあろう。

2014年5月15日 NHK朝の連続ドラマ、今年9月から放映の「マッサン」ロケ風景、 考古館入口より見る
 とは言え、義務教育の教科書にも載るこの事件は、既に歴史的事実となって82年、テストのためにこの日付けを覚えることはあっても、日常生活の中でこの日を意識している人は、どれ程いるだろうか?・・・・

 左に示した写真の人々、今年の5月15日に考古館周辺に集まった人々だった・・・「これが本当に倉敷の2014年の5月15日??・・・5,15事件頃ならまだしも・・・」と思われたら、貴方は歴史の達人・・・

 この日の考古館周辺は、出演のエキストラ、プラスNHK朝の連続ドラマのロケ見物人で溢れていた。・・・今年秋に始まる「マッサン」というドラマのロケ中である。このドラマの場面では、ここは大阪という設定だそうだが、倉敷はいつものようにロケ会場。

 NHKの宣伝をするつもりではないが、昨年になるか一昨年になるか、つい最近の事ながら、すでに記憶が怪しくなっている「カーネーション」と言うタイトルの、これもNHKのいわゆる朝ドラがあり、岸和田をイメージした設定で、考古館一帯でのロケーションがあった。

 明治・大正・昭和初年をひっくるめた頃が、このあたりのイメージのようだ。確かに倉敷の観光地として知られる、伝統的建物群の一帯は、江戸時代の建物やその雰囲気を残すことで、保存地域として選定されているが、実態は明治・大正・昭和前半期頃に改造されたもの、新築されたものも多いといえよう。倉敷川の岸の変化も、その最たるものかもしれない。

 とはいえ、このあたりでの映画ロケは古くから多かった。この「よもやまばなし」54話でも取り上げたように、1957年には映画ロケのため、今は無い消防器庫の板張壁に、ペンキでなまこ壁を描いたのである。テレビドラマ、コマーシャル撮影等々、大げさと言われそうだがロケは枚挙に暇なしと言う感じ。

 今回のロケの主人公「マッサン」と称される人物は、広島県竹原市の出身、明治27(1894)年生―昭和54(1979)年没、ウイスキー製造に生涯情熱を掛けた・・・それはともかく、彼はイギリスにウイスキー製造研究に留学中、外人女性と結婚したとの事。ロケではその女性と一緒の日本での情景なので、時代設定は大正末か昭和初年頃のはず。というのも彼が留学から帰国するのが、1921(大正10)年らしいので。

 ここに載せたロケ当日のエキストラ一同の描いた情景は、いわば5・15事件に近い頃の日常に設定されていることになる。一人一人の髪型・衣服・履物・持ち物・・・個々の物についての時代考証は難しいことだろう。考古学に関係した者にとっては、つい時代考証の正否が気になるが、「5・15」に近い時期であってみれば、当時の人は、その時代をどのように感じていたのであろうか。こちらの方が最も気がかり・・・・

 ロケ見物、エキストラの多くの人々も、撮影スタッフも俳優さんたちも、この日が5・15事件の日など、恐らく意識に無いだろう・・・と言ったら叱られるだろうか?・・・82年もの歳月の経った日である。こうした歴史が忘れ去られていても一向に構わないことだと思う。

 だがあの5・15事件の日から、僅か13年ばかりで、日本は原爆の被爆国になっている。広島に8月6日投下された原爆だけでも、その年中に9〜12万人は死亡したと言われる。広島・長崎の被災者には、今もなお原爆症の恐れが続いている。

 だが、その後我が国は苦しい復興期を過ごしたとは言え、70年もの間、戦争の無い日々が続いた。今、平和ボケなどと言う言葉と共に、「集団的自衛権」という言葉が、毎日周辺で聞かれる。これは形こそ全く違って見えるが、あの5.15事件と同じように、戦争に対する考えの、大きな転換点ではないのか?

 今現在から、僅か10余年ばかりの後に「しまったあの時・・・」と思わずに日々が過ごせていたら、5,15事件など、全く忘れてもいいことだったのだが・・・さて実態は・・・ここから先の歴史は、あなたが決めることでしょう!


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