(31) 盒〈蓋付き容器〉中のお宝は?〈その1〉

金蔵山古墳 墳頂発掘状況
二つの竪穴石室と方形にめぐる埴輪列右下は副室。
 中に何が入っているか分からない蓋の閉まった容器となると、好奇心も手伝って、つい覗いてみたくもなる。玉手箱でなくとも、開けるなと言われれば、よけい開けたくなるのも人情。まして1600年も昔の蓋物となると、中身に興味を持つのは誰しもだろう。

 倉敷考古館で調査した、金蔵山古墳については、このホームページ上でも「調査・研究」の中だけでなく「よもやまばなし16」などでも触れているので、ここでは繰り返さないが、今回問題にする蓋物=盒も、金蔵山古墳出土品中で最も注目された遺物であった。

 この埴輪と同質の盒は、写真に示すように、金蔵山古墳の墳頂にあった二つの竪穴石室のうち、中央石室短辺に付設されていた小竪穴石室形態の副室から、四個発見されたものである。この古墳が古くから激しい盗掘を受けていたことは周知されていたが、偶然にも、この副葬品入れの小石室は、盗掘を免れていたのだ。

 徹底的に石室を壊したような盗掘者にも、そこに小部屋が付いていたのが分からなかったように、調査をしていた担当者にとっても、天井石がすべて失われていた竪穴石室の短辺壁面上に、やや大きな平石があると言う程度の認識で、その下に小竪穴式の副室があるなど、意識してなかったというのが本当である。

 発掘中に、平石の上に飛び降りると、下に空洞のあるような響きがするな、というのは発掘に参加していた我々地元大学生もみんな認識していた。また石室図を書いていた人が、平石の隙間に持っていた計測用の定規を落とし込んでしまい、そこにかなりな空間があることは意識していた。しかし平石を持ち上げたとき、目に入ったのは下の写真の状況で、誰も予想してない光景だったのである。

副室内に盒三個が見える
 60年近く前である倉敷考古館の開館に際しては、京都大学考古学研究室に指導をお願いしており、当時の教授梅原末治氏は、時に考古館を訪れられていた。金蔵山古墳発掘でも同教授の指導で、当時京都大学院生であった西谷真治氏(天理大学名誉教授)が全発掘期間参加され中心となって調査された。

 副室の発見、しかも中に埴輪と同質の蓋物=盒が納められていたのは、まったく初めての事例である。一つの盒は蓋が割れていたので、内容物も見えたが、他の三つは1500年ばかり前に、蓋が閉められたままということである。梅原先生も来られた中で、なお慎重に盒の現状実測が続けられていた。

 梅原先生は一刻も早く内容が見たいのだが、弟子に、まだ作図中と言われれば、指導者の立場として、無理に蓋を開けろとも言えず、ステッキをコツコツいわせながら、気ぜわしく周辺をくるくる歩き回っておられた姿は、今でもはっきり思い出せる。

 蓋の壊れていた盒には、環状の石製品断片や青銅製品(筒形銅器)が入っているのが窺えていたが、他は錆びた鉄器らしい物ばかりだった。やっとの思いで蓋の閉まった盒を開ける段になった。

 一つ目、これは錆びた鉄片だけだった。二つ目、やや形は違うがこれも錆びた鉄片ばかりだった。三つ目を開ける時、梅原先生から思わず出た言葉、「これにだけには玉か鏡がありますように」・・・ところがこれも錆びた鉄ばかり・・・。

 古墳研究の権威であり、鏡研究の第一人者として知られる先生にとって、古墳研究での重要な資料は、鏡であり、古墳出土品の宝としては誰しも認める勾玉や管玉であった。数多くの鏡や立派な玉や石製品を出土したということが、その古墳の価値を高めるという認識は、今も変わらないであろう。

 しかし多くの鏡を持つことが古墳の主の「権威」だった時期から、より実質的な生産や武器に関係した鉄の道具を、多数自由に出来ることこそ、実質的な権威や権力が、把握できた時代に移り変わって来ていたことを、盒の中身が示していたのである。

 盒中の錆びた鉄くずに見えたものこそ、当時の本当のお宝であり、古墳時代研究の重要な資料となるものであった。今に至るまで、金蔵山古墳出土のこの鉄器は、古墳時代鉄器の代表選手なのである。



昭和28(1953)年3月27日 金 晴
 今朝鈴木増夫さん(当時岡大生)が平板・実測用具など取りに来館されました。また鎌木主事は、京都から横山浩一氏(当時京都大学助手、後に九州大学教授、故人)の代わりに、川端(西谷)真二氏(当時京都大学院生、後に天理大学教授)が発掘に、倉敷駅着12時53分で来られますので、来館。高橋護さん(当時明治大生)は後輩の三宅隆さん(当時天城高卒・4月より岡大生)が待っておられましたのに、とうとう来られませんでした。・・・
(金蔵山発掘開始時の考古館での日記である。個人名はフルネームにし、( )内に多少の説明を加えた。)


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