(36) 落書き

ブルガリア・プロプディフ 市街地内に残る遺跡の説明板に書かれた落書き
 最近イタリア・フィレンツェで世界遺産の大聖堂に、日本人観光客が幾組みも落書きをしていることが判明し、大きな話題となっているが、対象物があまり著名でないため、話題とならないが、落書きに悩まされている文化財は各地に多いであろう。それにも増して、現在では、一般的な生活環境内の各種さまざまの対象物が、落書きに悩まされているのは、世界共通の現象かもしれない。

 倉敷考古館でも室内の白壁に、相合傘と名前を彫りこんだものや、外壁の貼瓦に、細い線彫りではあるが名前らしい彫りこみは多い。この伝統的建物群一帯でも、すぐに思い起こせる落書き事件はある。

 2006年10月に、大原美術館の通用門の板戸や、外壁の一角をはじめ、周辺にスプレー塗料での曲線落書きなどは、今回のイタリアでの事件で、再度マスコミでも取り上げられたが、それ以前にも、考古館前の観光スッポトでもある石橋の橋柱や、そのあたり一帯の壁などに、スプレーによる、同様の曲線落書きが、派手に行われていたこともあった。

 最近の街中の困った派手な落書きには、まるで気取ったサインのような、妙な曲線の組合せ的なものばかり目に付く。嘘か本当かこの種の落書きには、わざわざ海外までも修行に行ったものまであるとか、それにしても落書きまで他人の真似しか出来ぬとは、それでも落書きなのか、恥書きだけではないか、と言いたくなる。

 つい最近たまたま観光旅行で、ブルガリアへ行った。今、日本でブルガリアといえば、ヨーグルトと琴欧州というのが通り相場であろうが、実は古代においても紀元前8〜4世紀の頃には、既にトラキア人による高い文明があり、すぐれた黄金文化の見事な遺物も多数発見されているのである。

 すでに30年近く前の1979年には、こうした文物を中心にした「古代トラキア黄金展」が日本の4箇所で開催され、岡山のオリエント美術館もその会場の一つだったのである。近く最近新発見の遺物を中心に、再び日本でトラキア展が開催されると聞く。

 また同国では、古代以来の建造物の上に築かれてきた市街地では、開発のたびに古代の遺構が現れるが、これを様々な形で上手に利用し、生活や観光に生かしている。現代の便利さを優先してはいない。古い町並みの残る地域では、保存に力を入れているのである。


ブルガリア
(上)2点 街中の落書き
(下) 美術館外壁画
 ところでここでも古い町並みを残す観光地域で、路地やガード下の壁などにも、大変デカデカと落書きがある。ひどいのは街中に保存されている遺跡の案内板にまであった(左上写真)。これなど日本の街角の落書きと共通した書き方のように見えた。日本で落書きが大問題になっているとは知らなかったが、落書きにいつも神経を尖らしているものだから、同所での落書きもカメラに収めていたのである。ついでに右に2点載せておこう。
 ところで一番右下の写真は、その地の美術館外壁の壁画である。

 落書き屋の中には、壁画の書きたい人間もいるだろう。何かを訴える手段かもしれない。確かに落書きにも、それぞれの時代性を示す社会・文化史的な意義もあるだろう。しかし安易な模倣や、はみだし意識だけでは通用しない。公共や他人の大切な器物に勝手に書いているのであるから、せめて消すのが惜しいと、万人に思われるようなものでも内容でも、書けるものなら書いてみろと言いたい。


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