(78) ピューマのおなら

南米ペルー チムーの鐙形把手付ペリカン形壷

 ・・・・顰蹙をかいそうな題名で失礼・・・・・

 先日、当館に展示している、南米ペルーの古代の土器を撮影していた時の話である。簡単な写真でよいこともあり、横着をして来館者の無いとき、展示室で手軽に撮影していたら、たまたま大学生らしい男性が一人入ってこられた。一寸失礼とは思ったが、興味深そうにケース内の土器類を見ておられたので、そのまま撮影を続けながら「何か面白いものがありますか」と聞いてみた。

 わざわざ見て下さっている人の邪魔をしていることもあったので、ちょっと展示しているインカ帝国以前のモチーカ(モチェ)やチムーの土器の、口が小さいことなどを説明した。

 「水や飲み物を入れる容器は、口が小さいのは蒸発を防ぐため。土器なので、器壁は空気が流通し、表面から僅かずつだが水分が蒸発、そのため気化熱が取られ、中の水分温度が低く保たれる・・・また口を細長くし、途中から二股にして把手にもなる形にする(右上写真参考)、これは鐙形把手とも言い、この形が長い間、ここの土器の特長と成る・・」というようなことだった。

  
チムー双壷
 (左)全形 高さ16cm (右)ピューマ背後より
 モチーカ(モチェ)はペルー北部で紀元前後頃より8世紀ごろまで続いた文化のようだ。人物・動物など具体的に象り、美しく彩色された土器類は墓に副葬されていた物らしい。チムーはモチーカ文化を引き継いだ地域で、似た形の土器ながら、表面に艶を持つような黒色土器が特徴的である。チムーは王国であって、15世紀後半ごろインカによって滅ぼされた、各地の国々の中では、最後に滅んだ王国だったようである。

 ともかくペルーでは、古くから墓出土の土器は大切にされていたようで、ワッケーロと呼ばれる、いわば盗掘者がいて、こうした土器が多かったらしい。ただ残念なことにそれら土器の由来は分からない。館に展示するものも古く収集された、そうした土器類である。

 そこで先の続きだが、たまたま左上写真の土器を撮影のため取り出していた。チムー期の土器である。直接この土器を先の男性に見てもらいながら・・・・・「この土器は面白いです、二つが連なっていて、一方の口から液体を入れると他のほうも満たすので、片方の口はふさがれ、その上にピューマがのっています。それで一方の口から液体を入れると、他方の容器の中の空気が抜けないので、このピューマのお尻に穴が開けられています(左上の右写真参照)・・・最後に空気がここから抜けるとき、ピューと音がします・・これは実験して聞いていますが・・・ 

 「ああ・・ピューマのおならですか」突然見ていた人が言った・・・・全く予期しない発言だった。少々面食らって「さー・・そうかどうか分かりません・・」で説明を終えてしまった。

 実は、薬缶の中には水の入れ口と注ぎ口が同一のもので、しかも口には蓋付き、その蓋には穴が1つあるだけのものがある。この薬缶では、中の水が沸騰したとき、蒸気は口蓋の小さい穴から出るだけなので、笛のようにピューピュー鳴って、湯の沸いた事が分かる。この土器もピューと鳴ることで、中が一杯になったことが分かる仕組みだろう・・・と説明するつもりだったのだが・・「おなら」の一言で本当に気が抜けてしまった。

 学生さんらしい人物、まもなく「有難うございました」と大変丁寧な挨拶を残して部屋を出ていかれた。

 考えてみれば、明らかにお尻から出る音なので「おなら」というのは、全く自然の発想である。なまじ薬缶のことを考えるほうが可笑しいのかも知れない。この土器を作った人々は本当は何を考えていたのか?もしピューマのおならに、いたちやスカンクのような機能があったら・・・あるいは大きな音だったりしたら・・・・・この土器を作ったチムー人の考えも分かるのでは・・・

 ピューマは、南米に多く、猫科の動物だが、体長は1〜1.5mはあり肉食動物、時には羊や馬までも襲うようだ。近い動物園でピューマを飼育しているのは、大阪天王寺動物園だった。今は1頭だけとのことだったが、電話でピューマのおならのことを、お聞きした。

 先方もこの質問に少々驚いておられたようだが、というのもピューマのおならは、余り気にならないということだったのだ。草食動物はかなりおならを出すらしく、象などは大きな音だそうだ。ピューマは肉食、猫同様で出さないことは無いが、気になるような音も特別の匂いもないと思う、とのことだった。

 チムーの連壺に取り付けられていたピューマの孔からの音、やはり単なる空気抜きか?満杯の知らせなのか?もっと深い意味があるのか?・・・他所でもよい孔を、わざわざ尻に開けたのは、ただの遊び心なのか・・・・

 1532年、スペイン人によって滅ぼされたインカ帝国にいたるまで、南米ペルー一帯の文明は、鉄器も文字も持たず、一方では、優れた土木工事を行い、多くの金細工を作り、独自の文化を築いていた人々、この土器もその素顔の一つである。


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